時 そ ば


おなじみのお笑いを申し上げます

おーい そば屋
あったかいそば たのむぜ

ヘイ すぐにできますから

そりゃありがたい
しかし 今夜は冷えるね

こんな寒い夜は 屋台のそば屋で
あったかいそばでも食って
すぐに帰って寝るのが一番だ

ヘイ お待ちどうさま

もうできたのかい はやいね
じゃあ いただくよ

(ズズーッ…)

いいダシだね
こりゃ うまい!

しかし ダシがうまくてもね
そばにコシが無きゃいけないよ

(ズズーッ…)

ん〜
こりゃ コシのあるそばだ

ダシはうまいし そばにコシがある
いいそば屋にはいったもんだ 

おっ かまぼこも厚く切ったね
薄く切って 向こうが透けて見える
かまぼこはいけないよ

(ムシャ ムシャ…)

コリコリして うまいよ

おや ちくわも本物だ
時々 ちくわの形をした麸を使う
店があるけど 麸はいけないね

(ムシャ ムシャ…)

ああ うまかった
じゃあ お金を払うよ いくらだい?

十六文で

銭は細かいんだ
一文ずつ渡すから 手で受けてくれ

じゃあ 行くよ 一 二 三 四
五 六 七 八 何どきだい?

九つで

十 十一 十二 十三 十四
十五 十六文 ごちそうさま

また ごひいきに

この様子を
そばの塀にもたれて見ていたのが

世の中をついでに生きてるような
ボォーッとした男で

よくベラベラしゃべるね
いろんなことをほめたぞ

ダシがうまくって そばにコシがあって
かまぼこがコリコリしてて
本物のちくわを使ってるだって

世辞ばっかり言ってるから
変なことでもするのかなと思ったら
ちゃんとお金を払ったよ

一 二 三 四 五 六 七 八 
何どきだい? 九つで

十 十一 十二 十三 十四
十五 十六…

おやっ
変なところで ときを聞いたねえ

一 二 三 四 五 六 七 八 
何どきだい? 九つで
十 十一 十二…

あっ
九つはそば屋が言ってるよ

九つの分をお金を払ってないよ
うまくやったね

よーし おいらも
明日の夜 やってやろう

よせばいいのに 次の日の夜
この男はうれしそうに
屋台のそば屋へやってきました

おい そば屋

ヘイ いらっしゃい

あったかいそば たのむぜ

ヘイ すぐにできますから

そりゃありがたい
しかし 今夜は冷えるね

いえ 今夜はあったかですよ

ああ そうだね
あったかい夜でもね

やっぱり あったかいそばを食って
すぐに帰って寝るのが一番だ

まだ そばできないの?

どうもすいません
今 お湯がわきましたから

いや ゆっくりでいいんだよ
ゆっくりで… うん

昨日のようには
なかなかいかないね

ヘイ おまちどうさま

あ できたの?
じゃあ いただくよ

(ズズーッ…)

ププププ…! 辛いダシだね
舌がビリビリするよ

でも そばにコシがあれば
いいんだよ うん

(ズズーッ…)

ベチャベチャだ
コシなんか どこにも無いよ

ダシは辛いし
そばはベチャベチャだし

泣きたくなるような
そば屋へ入っちゃったね

また かまぼこが薄いね
向こうが透けて見えるよ

でも ちくわは本物らしいな

時々ね ちくわの形をした麸を使う
店があるけど 麸はいけないよ ん〜

(ムシャ ムシャ…)

とけちゃったよ
本物の麸だよ

ま このほうが
おなかにやさしいからね

(ムシャ ムシャ…)

ああ まずかった
じゃあ お金を払おう いくらだい?

十六文で

銭は細かいんだ 一文ずつ渡すから
手で受けてくれ じゃあ 行くよ

フッフッフッフ
気の毒だねえ

何ですか?

いやいや 何でもないよ
じゃあ 行くよ

一 二 三 四 
五 六 七 八 何どきだい?

五つで

ああ そうかい
六 七 八…


(NHKえほん寄席より)